僕の許に寄せられる依頼は様々だが、プロポーズのための代筆依頼というのもある。
言葉を選ばずにいうと、プロポーズの依頼は“楽”だ。
“楽”というのは、費やす労力が少ない、という意味合いではなく、成功する確率が非常に高い、という意味だ。
プロポーズをするということは、お相手と現在お付き合いをしているということであり、
お互いに想いを寄せ合っているということだ。さらに、プロポーズのための依頼をしてくるくらいだから、それなりに脈もあってのことだろう。
極端な話、「愛してる。結婚しよう」の一言でも、きっと成功する(依頼者がそれで納得するかどうかは別として)。
そんな“楽”な依頼だが、代筆屋をはじめてから最初にプロポーズのための依頼が来たとき、受けるべきか否か、正直、迷った。
代筆屋として活動するにあたり、“結果を出すこと”、そのことに僕はこだわった。
結果を出し、想いの成就に導いてこそ、僕の存在価値はある。そう思った。
そんな想いで活動をしていたときに来た、「付き合っている彼女にプロポーズをしたい。そのために力をお借りしたい」という依頼。即答はできなかった。
なぜ即答できなかったか?
それは、僕が書いても、依頼者が書いても、結果は間違いなく出ると思ったから。
プロポーズは成功すると思ったから。つまり、僕である必要はない。
同じ結果が出るとわかっていて、お金をいただくこと、代筆を請け負うことに抵抗を覚えた。
考えたが、結論を出せず、僕は自身の考えをそのまま依頼者に投げかけた。
今回の依頼背景からすると、ご自身で書いてもきっと上手くいく。僕が書かなくても上手くいく。そう、メールで、投げかけた。
十分も経たずに、依頼者から返信がきた。
そうですね。ただ、彼女に最高に喜んでもらえる手紙を渡してあげたいのです。
あぁ・・・、と僕は思った。
納得をした、というよりも、こんなことに気づかないのか、という自身に対する嫌気。
僕は、会社員としては得られない感情や経験を求めて、この仕事をはじめた。
それが、結局のところ、結果を追求し、他者が喜ぶかどうかという視線が抜け落ちる。
同じことを繰り返していのだ、と。
承知しました。お引き受け致します。
僕は、この依頼を引き受けることにした。
僕が書いても、依頼者が書いても、プロポーズは上手くいく。
でも、僕が書いた方が、より印象に残る、より喜んでもらえる手紙を書けると思ったから。
結果を追求することが悪いことだとは思わない。会社員として結果を出すことが、ひいては、社員だったり、社員の家族だったり、消費者や取引先。いわゆるステークホルダーの喜びにつながる。その理屈は正しいと思うし、そう信じるから、僕は会社員としての務めも全うしたいと思う。
ただ、もう一方で思う。結果云々は度外視して、売り上げや利益といったお金の匂いがしないところで、単純に、わかりやすく、目の前にいる人を喜ばせたい。笑わせたい、と。僕が、この人を喜ばせているという肌感覚が欲しい。
その想いを、代筆屋という仕事を通して、僕は満たしている。
百人や千人は無理でも、一人くらいは、向き合っている一人くらいは、喜ばせられるように。そのくらいの自分ではありたいと、思っている。

StartHome編集部

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