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日頃レビューというものを書く機会がないため、その作法について深くは知らないが、察するに、導入としては、ネタバレしないよう留意しながら、出演者やあらすじを記すのが常なのだと思う。

それに倣うのであれば、『昼顔』は、上戸彩、斎藤工主演の、W不倫ものの映画だ、ということになる。手抜き、ではない。“W不倫もの”と聞くと、想像するストーリーがあると思うが、その想像の通り、とまではいかずとも、それに近しいストーリーが展開される。だから、細かくあらすじを書く必要もないのではないかと思う。

いわゆる、“お決まり”というやつだ。
ただ、悪い意味で“お決まり”という言葉を使っているのではない。語弊があれば“王道”と言い換えてもいい。

約二時間の上映が終わり、照明がつくや否や、前に座っていたカップルの男性側が、「ベタベタだな・・・」とつぶやいた。それを耳にして、僕は、えっ?と思った。そんなの当たり前じゃん、と思った。

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『昼顔』は同名の人気ドラマを映画化したものだ。ドラマは上戸彩演じる紗和と、斎藤工演じる裕一郎の出会いから別れ(W不倫なので“別れ”という表現が適切なのかどうかはさせておき)を描いたものだが、映画は、その後、三年の時を経たのちの、二人の物語だ。当然、映画の観客は大半がドラマを観た人だろうし、不倫ものならではの、どろどろざわざわを期待している。いわば、“ベタなストーリー”を期待している。想定外や個性などいらない。不要。いや、邪魔。

だから、そういう意味では、この映画は王道であり、期待を裏切らない。うわぁー、そこで奥さん出てくるかー。ひゃー、こいつがそれをやっちゃうか。そうそう、こういう場面ではこういう音楽だよねー。と余すところなく、これでもか、というくらいツボを押さえてくる。たとえるなら、水戸黄門の印籠、もしくは、紅白歌合戦における小林幸子の衣装のようなもので、待ってました! の連続。
唯一、ん?と思った、つまり、王道から外れていると思ったのは、主題歌をLOVE PSYCHEDELICOが歌っていること。どろどろと対極にあるようなハイトーンボイスのため、少なからず違和感を覚えたが、監督がファンなのか映画会社のたっての希望なのか、なにかしらの理由があってのことなのだろう。

さて、ツボをおさえている、ということ以外に、もう一つこの映画を観て感心をしたことがある。それは、上戸彩からも斎藤工からも“体臭”がしない、ということ。映画なんだからそりゃ体臭はしないでしょ・・・と思われるかもしれないが、否、そういうことではない。

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『昼顔』のドラマや映画のファンは、その大多数が女性、それも20代~30代くらいの若い女性なのだと想像する。事実、映画館の9割方は、20代の若い女性が友達同士で来ていた(一割は、上戸彩ファンと思しき中年男性)。なぜ、彼女たちが不倫ものを好んで観るかと云えば、きっと、動物園のパンダを見る感覚と同様なのだと思う。
要は、檻の外から、非日常的で、珍しくて、かわいらしいものを客観的に眺めたい、のだ。

ベッキーと”ゲスの極み”の件が、あそこまで社会に非難されたのは、もちろん、前提としては不倫という関係性に嫌悪感を持たれたものだが、それに加えて、LINE流出により、生々しい写真や会話が露見してしまったからだと考える。あまりにも、裏面が見えすぎて、彼ら、彼女たちの体臭が、“臭って”きてしまったのだ。
それがために、世間の反応が余計に過敏になってしまったのかもしれない。

動物園の客は、パンダの糞尿の臭いを知りたくはないし、目つきが実は鋭いことも知りたくはない。どこまでも、ころころとして、かわらいしいものであって欲しいのだ。
そういう意味では、上戸彩と斎藤工の無味無臭ぶりは秀逸だった。観客は、安心して、檻の外から愛憎劇を眺めることができる。濃厚、とまでは云わないが、ベッドシーンもあるのだが、彼らの透明性が崩れることはない。

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映画の上映後、そういえば、”昼顔”って何なんだろう・・・、と思いネットで調べてみた。
昼間に見せる顔、くらいに捉えていたのだが、映画を観ることで、実際にそのような花があることを知り、気になった。

昼顔。道端や日当たりのよい草地に咲く、ヒルガオ科の花。昼間に咲くのが特徴。
花言葉は、「絆」「友達のよしみ」「情事」。

なるほど。花言葉の意味と、物語をかけているわけだ。
最期の最後まで、奇をてらうことなく、まっとうにツボをおさえている。

見事。安心、安定の『昼顔』。


【公開情報】
■タイトル『昼顔』
■公式サイト:http://hirugao-movie.jp/
■出演:上戸彩、斎藤工、伊藤歩、平山治行
■監督:西谷弘(映画『真夏の方程式』『任侠ヘルパー』『容疑者Xの献身』他)
■脚本:井上由美子
■公開日:2017年6月10日(土)より 全国東宝系にて公開
■企画・製作:フジテレビジョン
■制作プロダクション:角川大映スタジオ
■配給:東宝

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StartHome編集部

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