先日2月27日に、上野動物園でジャイアントパンダの「リーリー」と「シンシン」の間で自然交配が成功し話題に。遡ること2012年、子パンダは誕生していますが生後一週間で死亡している。今回、まだメスのシンシンが妊娠しているかどうかわからないが、もし順調に子パンダの出産・成長が成功すると、上野動物園では1988年のユウユウ以来、実に29年ぶりにと期待が高まっている。そこで、なぜジャアントパンダの繁殖がなかなか成功しないのか、その理由と成功させるためにされている工夫を探ってみた。

パンダの繁殖が難しい理由

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パンダの繁殖が難しいのは、以下のような特性がパンダにはあるからと考えられる。

【理由1】交配させるのが難しい

・妊娠可能な日は年に数日
パンダは、犬と同じく「季節繁殖動物」と言われる動物である。メスが妊娠可能な体の状態になって発情する季節が決まっていて、発情期は年に1回、2~5月の数日~2週間と言われている。この数日を逃してしまうと、また1年間繁殖のチャンスが訪れないという。

・繁殖期でもうまく交尾ができない
年に数日の発情日でも、うまく交尾ができないことも多いようだ。もともと発情期以外に一緒にすると喧嘩をしてしまうのだが、発情期でもタイミングや相性が合わず、うまく交尾ができないと喧嘩し、大けがを負ってしまうこともある。

【理由2】妊娠診断が難しい

パンダの妊娠を簡単に診断する方法はないようだ。というのも、人間のように妊娠検査薬がないうえ、「偽妊娠」と言われる現象があり、妊娠していなくても乳房が張ってしまうため、見た目の変化でも妊娠がわからない。最も確実な妊娠診断はエコー検査だが、胎児が非常に小さく、体が毛むくじゃらで、検査に協力的ではないパンダのエコー検査もかなり大変なよう。また、パンダには「着床遅延」と言われる受精しても着床が遅れる現象がある。そのため、妊娠期間が70~342日と非常に幅が広く、出産予定日の推定も難しくなる。

【理由3】未熟児で生まれて来るが子育てが下手

子パンダの大きさはたった100~200g。大人のパンダがおよそ100㎏あるのに対し、パンダの赤ちゃんは100~200gの大きさで産まれてくる。実に大人の500~1000分の1の体重だ。2~3㎏の小型犬や猫でも、100gくらいの赤ちゃんを産むことを考えると、パンダの赤ちゃんがいかに小さいかがわかる。そのため産まれたてのパンダは非常に弱く、無事生まれてきてもうまく育つ確率が低くなってしまう。

そのほか、母パンダからの落下が多いことも問題とされている。パンダの手は物をつかむには向いていないため、赤ちゃんをうまく抱きかかえられず、落としてしまうことも多いよう。特に下がコンクリートなど硬い場所だと、落ちた子パンダへのダメージも大きく、日本でも落下のダメージによる胸部挫傷で亡くなってしまった子パンダも実際にいるといわれている。

成功させるための工夫・条件

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交配・妊娠・子育てという繁殖が難しいジャイアントパンダだからこそ、成功するためにはさまざまな工夫が求められる。長年の研究や経験から、以下のようなことが必要とされているようだ。

■タイミングの見極め
パンダの発情行動にはいくつかありまる。これらの発情行動がピークになった時に、うまくオス・メスを一緒にさせることで自然交配がうまく行くことが多いらしい。以下が主なメスの発情行動となる。

・体を冷やす
・恋鳴き
・お尻を突き上げる(プレゼンティング)

発情が始まったら、床上手な雄パンダの存在が重要となる。和歌山のアドベンチャーワールドでは、近年立て続けに子パンダの繁殖に成功している。そのカギを握るのが、オスの永明(エイメイ)だ。アドベンチャーワールドで産まれた15頭のうち、実に14頭の父親がこの永明だという永明は強引に交尾しようとしてメスに嫌われないように、メスの発情がピークになって受け入れ態勢が整うまでじっと待てる優しさを持ち合わせている紳士的なパンダだ。こうした、優しい性格を持つ彼の存在が、交配成功に大切なのだ。交尾がうまく行かなかったパンダには、人工授精が行われることも。この技術も随分進歩し、今後のパンダ繁殖成功のカギとなるかもしれない。

■環境エンリッチメント
パンダに限らず、人工飼育下の野生動物は、野生環境下の個体に比べて繁殖率が悪いことがわかっている。おそらく、本来の生活環境とは違う場所での生活がストレスになっていることが原因なのだろう。そのため、できるだけ人工飼育の生活環境をその動物本来の形に近づける「環境エンリッチメント」も繁殖成功の1つのポイントではないかと考えられてる。子育てが下手なパンダのために、人間が手助けすることもしばしば。出産後しばらくの間は、常に子パンダの状態を確認し、母乳がうまく飲めなかったり弱っている疑いがある場合には、人口哺乳などで子育ての介助をすることもある。ちなみに、ヒト用と犬用のミルクを混ぜて与えていらしい。

また、パンダは50%の確率で双子を産むと言われているのだが、基本的には産まれた2頭のうち、自ら子育てをするのは1頭のみ。そこで選ばれなかった1頭対し人口哺乳し、繁殖の成功率を高める努力も行われているのだ。

シンシンが妊娠していた場合、無事に出産を迎えるのは5月以降になると考えられる。なかなか繁殖が難しいジャイアントパンダだが、手の平に乗るような大きさの赤ちゃんが、みるみる大人になっていく姿を見るの想像しただけではほほえましい。この春、上野動物園からパンダが無事生まれたという便りが届くことを期待したい。

参考著書
「パンダ 猫をかぶった珍獣」倉持浩 岩波書店
「上野の山はパンダ日和」 佐川義明 東邦出版
「パンダが来た道」 ヘンリーニコルズ 白水社

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StartHome編集部

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