今回の記事では、2017年1月に就任したアメリカのトランプ新大統領によって注目を浴びるようになった「大統領令」について解説しよう。中東・アフリカのイスラム圏7カ国の国民に対する入国停止措置、TPP離脱…これらは、議会や党(共和党)などと綿密な協議を経た結果打ち出された方針ではない。「独断」とも思われるような大統領令として打ち出されたものである。こうしたニュースを読み解くためには、アメリカにおける大統領令の位置づけを理解する必要があるだろう。今回の記事を読むことで、アメリカにおける権力構造まで垣間見えるはずである。

そもそも「大統領令」とは?

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言葉だけを見れば、単純に大統領の出す命令が「大統領令」となる。しかし、その本質を理解するためには、日本とは異なるアメリカの権力構造を理解する必要がある。日本と同じように、アメリカでも行政権・立法権・司法権を分割させる三権分立の原則で政府が成り立っている。議会は二院制で、通常であれば法律は上院・下院の賛成を経てから、大統領が署名することによって成立する。だが、日本では議院内閣制であるのに対し、アメリカでは大統領制。大統領は日本の首相よりも強い権限を持っており、その一例が法律と同等の効力を持つ大統領令である。大統領令が出されたら、行政機関は即座にそれに従わなければならない。

なぜこんなに大統領令が注目を浴びているのか?

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大統領令という制度そのものが注目を浴びているというよりも、現在のトランプ大統領の大統領令の内容が注目を浴びていると言った方が適切である。
誤解しがちだが、大統領令自体はどの大統領も発令している。例えば、オバマ前大統領は民主党出身だったが、議会が共和党多数で法律が通過しづらい状況にあったため、170件ほど大統領令を発令した。また、1930年代の恐慌期から第2次世界大戦末期まで大統領の職にあったフランクリン・ルーズベルト大統領は、12年間に3000本を遥かに超える大統領令を出している。決して、大統領令はトランプ大統領の専売特許ではない。それにもかかわらず注目を集めているのは、結局彼が就任直後から、しかも重要課題について大統領令を出したからである。例えば「特定のイスラム圏国家の市民および移民・難民の入国制限」「TPP離脱命令」「メキシコとの国境に壁を建設」「オバマケア撤廃」などである。どれも大統領選の時から公約として掲げていたことで、ある意味既定路線ではある。しかし、メディアの中には「物議を醸すものも多く実行が難しいので、これらはあくまで選挙用の「パフォーマンス」と見る向きも少なくなかった。そのため、「本当にやりやがった!」と驚きを持って迎えられている面がある。

大統領令にストップをかけることはできるのか?

Red stop road sign covered with metal grilles

大統領令は法律と同等の効力を即座に有するため、すぐにストップをかける方法は存在しない。歯止めをかけるとしたら、大統領令発令後に行政機関・立法機関(議会)・司法機関(裁判所)が、大統領令に批判的な動きを見せるほかない。

例えば、行政機関は表面的には大統領令に従わなければいけないが、水面下で命令を拒否しようと思えばできる…が、もちろん失職の恐れはある。今回も、司法長官代行を務めていたイエーツ氏が入国制限に反旗を翻して解任された。立法機関である議会は、大統領令の内容に反する法律を成立させれば、大統領令に歯止めをかけられる…が、いかんせん時間がかかる。しかも、最終的には大統領の拒否権行使も可能。議会による抵抗も、あまり実効性が高くない。したがって、最も有効なのは司法機関による判断である。実際、今回もアメリカ各地で入国制限に対する訴訟が矢継ぎ早に起き、違憲判断が下っている。ただ、最高裁レベルで本当に違憲判断を下せるかどうか、難しい議論になる。

結局、それぞれ抵抗手段はあるものの、大統領令に真っ向から対抗できる力を持つことはないのが確かである。それゆえ、アメリカ国内のみならず全世界がトランプ大統領の一挙手一投足(ツイッターまでもが…)に戦々恐々としているのだ。

参考URL:https://americancenterjapan.com/aboutusa/translations/3162/

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