1.はじめに

2017年7月19日付で、消費者庁は、パズル&ドラゴンズ(パズドラ)の広告表示に関連して、ゲームメーカーに対して景品表示法の表示違反(優良誤認表示及び有利誤認表示)として、一般消費者に誤認させるものである確認と再発防止を周知徹底する旨の措置命令をおこなった。
景品表示法(不当景品類及び不当表示防止法)とは、不当な表示や過大な景品類の提供による誘引を防止することによって、一般消費者を保護する法律である。
景品表示法は、大きくは、表示の規制と景品の規制について分類される。今回は、このうちの表示の規制に関わる内容である。さらに、表示の規制には、主に、この商品やサービスはとても良い品質だ!と消費者に思わせて、実際はそうではない「優良誤認表示」と、これはとてもお得だ!と消費者に思わせて、実際はそうではない「有利誤認表示」という2つがある。
今回のパズドラは、優良誤認表示と有利誤認表示の2つを指摘されたわけだが、このような景品表示法の表示違反による措置命令がなされると企業にとって想像以上に痛手となる可能性があることについて解説したい。
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2.優良誤認表示

まず、そもそも、「表示」とは何であろうか。景品表示法での「表示」とは、客を誘引するための商品やサービスの内容や条件等の広告その他の表示のことをという。具体的には、チラシやパンフレット、カタログ、パッケージ、Web広告、コマーシャルなどはもちろんディスプレイや実演、セールストークなども含むとされている。
すなわち、「表示」には、パッケージ自体や広告のみならず、営業上でのトークも含まれるのである。したがって、録画や録音などが残っていれば、セールストークも規制の対象になりうるということである。
本題に戻ると、「優良誤認表示」とは、「商品やサービスの品質、企画などの内容について実際のものや事実に相違して、競争事業者より著しく優良であると消費者に誤認させる表示」のことをいう。簡単に言えば、前述の通り、「これはとても良い品質だ!と消費者に思わせて、実際はそうではない表示」ということである。例えば、牛肉のブランドを偽った表示や、予備校の合格実績を水増ししたりした表示、カシミヤ100%と表示して、カシミヤが50%しか含まれていない場合などである。今回のゲームメーカーの件は、13体のうち、2体だけが究極進化をするものだったが、13体すべてが究極進化するように見せかけていた不当表示であった。
ただ、このように意図的に偽るものは明らかであるが、意図的に偽るつもりがなかったとはいえ、「表示」自体に合理的な根拠がない効果や性能の表示についても、「優良誤認表示」とみなされてしまい、不当表示とされてしまう。
すなわち、効果などの表示をする場合には、ちゃんとした裏付けがあって表示をしているのが当たり前だということなのである。
また、消費者庁は、必要と認めるときは、表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料を事業者に求めることができ、資料が期日までに提出されなかったときは、「優良誤認表示」とみなすとされている。文書の提出期間も15日と非常に短い。上述の通り、消費者庁としては、ちゃんとした裏付けがあって表示しているはずとの立場なので、事業者としては、広告表示やパッケージの表示などについて合理的な根拠を示すちゃんとした資料を手元に置いておく必要があるのである。
この「合理的な根拠」もくせもの(曲者)で、「客観的な実証」を求めてきており、①試験や調査によって得られた結果、②専門家や専門機関の見解や学術文献、でなければならないのである。
例えば、専門家とは言えない主婦の書いたブログや他社の宣伝文句などの根拠は一蹴され、専門家ではない方の書籍の一節なども根拠不十分とされてしまうおそれがあるのである。
加えて、表示された効果、性能が提出資料によって実証された内容と適切に対応していなければならないことももちろんである。
これは、「不実証広告規制」といわれており、消費者庁が認める根拠の資料が提出できなかったときは、その表示は「不当表示」とされてしまうのである。
今回のゲームメーカーの件は、効果性能の文書を求めるに至らない、明らかな不当な表示であったため、公表された措置命令に、特にこの文書提出に関する記載はなかった。
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3.有利誤認表示

もうひとつ表示規制である「有利誤認表示」とは、「商品やサービスの価格などの取引条件について、実際のものや事実に相違して、競争事業者より著しく有利であると消費者に誤認させる表示」のことをいう。簡単に言えば、前述の通り、「これはとてもお得だ!と消費者に思わせて、実際はそうではない表示」ということである。具体的には、携帯電話の料金で他社の割引サービスを除外して自社が一番安いと見せかけた表示や、家電量販店での他店より平均価格を設定し、価格は同じでも値引き率が高いようにみせかけた表示、抽選で当選者は100人なのに全員当選などと偽った表示などが該当する。よく問題になるのが、二重価格表示といって、当店通常価格との比較をするもので、実態がない価格との比較である場合は不当表示とされる。
今回のゲームメーカーは、「ディズニーマジックキングダムズ」において、「キャラクターとジェムがいっしょになったお1人さま1回限りお特なパック!」として、別々の合計金額よりもあたかも安いかのように表示していた不当表示であった。

4.措置命令

消費者庁は、景品表示法違反の疑いがある場合には、関連資料の収集や事業者への事情聴取などの調査を実施する。事情聴取なので、長時間にわたって、調査を受ける本人のことから、事案の詳細な内容、資料に対する質問についてなどが調査官から聴取されるのである。
措置命令では、①違反したことを一般消費者に周知徹底すること、②再発防止策を講ずること、③その行為を将来繰り返さないことなどが命令される。
もちろん公表されるので、新聞記事等により痛手を被るのはわかっていることだが、このうち①の一般消費者への周知が結構大変な話なのである。
この内容は、事業者が勝手にやればいい話ではなく、消費者庁が措置命令の結果として効果があるものとして認める方法でなければ、命令に従ったとはならないのである。消費者庁からの要請は、全国紙2紙以上にはっきりわかる位置に「不当表示を認めて周知させる広告」を出すことなどなのである。すなわち、全国紙2紙以上に広告をだすということは、これだけでも1,000万円以上の出費があるということである。
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5.課徴金制度

法改正によって、2016年4月から、「優良誤認表示」と「有利誤認表示」については、違反表示していた対象期間について、「課徴金」が課せられることとなった。
課徴金は対象期間の対象商品・サービス(以下、商品とサービスをまとめて「対象商品等」ということする)の売上の3%である。莫大な額である。売上が3億3,000万円あれば、課徴金の額は1,000万円、売上が33億円あれば、課徴金の額は1億円になる。(課徴金には、減額制度や返金措置もある。)なお、課徴金は150万円以上となっており、売上が5,000万円未満で課徴金が150万円未満となる場合は、課徴金は課せられない。
また、「課徴金対象期間」は、違反表示をやめただけではストップしない。すなわち、その商品等の販売中止をすることや、措置命令で記載した新聞広告のような方法を自主的にとって、一般消費者に周知させるなどして、誤認を解消する手段をとらないと止まらない。ただ、この期間は、違反表示行為(法律上は「課徴金対象行為」)をやめたときから最大6ケ月までである。通常は、商品等の販売は継続して、消費者庁の処分を待つことが多いと思うので、行為をやめてから6ケ月は課徴金の対象の期間が継続することとなる場合が多いと思われる。なお、「課徴金対象期間」は最長で3年である。
ただ、課徴金は、措置命令の対象が100%対象となるわけではない。事業者が、優良誤認表示や有利誤認表示について相当の注意を怠ったものでない場合は、課徴金の対象にはならない。
さらに、課徴金対象についての、優良誤認表示に関する不実証広告規制が推定規定になっている点(措置命令の場合はみなし規定)も少しは緩和されている。
なお、2017年1月に、自動車の燃費の不正問題で、景品表示法違反の課徴金4億8,500万円の納付命令がなされている。
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6.最後に

いかがであろう。景品表示法の表示違反で、消費者庁の措置命令といった行政処分となると、機会損失や賠償などの損失、謝罪等の広告、課徴金と、最悪トリプルパンチのペナルティを食らうことになりうる。もちろん、行政処分なので、処分に対して行政訴訟を提起することは可能だが、企業側が行政に勝利することはかなり厳しいことは明らかで、相当な訴訟費用を強いられることも目に見えている。このような、行政処分がなされると、金銭的に余裕のある事業者ならよいが、中小企業の場合は、事業の存続にかかわる問題にもなりかねない。
最近、消費者庁の措置命令がなされる頻度は上がっているように思われる。顧客の誘引のために、根拠をしっかり確認もせず効果を表示する行為や、安易に誇大な表現をして、無理やり売上を上げようとする行為は、非常にリスクを伴うことは肝に銘じなければならない。
今回の、ゲームメーカーの処分を受けて、再度、景品表示法に対する認識を高めるべきであろう。

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StartHome編集部

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