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最近、分散型動画メディアといって、シェアされるような動画メディアが盛り上がりを見せている。
動画配信市場は、野村総合研究所の報告(「2022年度までのICT・メディア市場の規模とトレンドを展望」 )によると、2017年で1800億円、2020年には2000億円を超えるとの予測。ますます拡大する方向である。特にスマートフォンでの市場は、広告市場の8割前後の規模との見込みになっている。ただ、面白いことに、同じ分野のコンテンツでも人気の高い動画メディアが複数共存しており、特に、料理に関する動画メディアが、盛況である。料理の情報サイトは昔からたくさんあるのに、どうして動画メディアが最近盛り上がっているのか。人気の高いDELISH KITCHENとkurashiruを中心に、クックパッドとの比較も交えながら分析してみたいと思う。table
国内における動画配信市場規模の推移と予測
出典:2022年度までのICT・メディア市場の規模とトレンドを展望

野村総合研究所 2016年11月21日

1.クックパッドの台頭

これまで、インターネット上の料理メディアとして台頭していたのはクックパッドであった。クックパッドは、インターネットの普及に伴って、これまでの料理本やTV番組といった運営側の発信とは違い、ユーザーからの投稿されるレシピでサイトを作りあげるという、ぐるなび(店舗が情報提供)と食べログ(顧客の口コミ)の関係に似た、ユーザーも参加できる料理レシピの集合体という新しい分野を切り開いた形になっていた。

ただ、クックパッドは、写真とテキストでの構成であり、どちらかというとPCやスマホ(ここでは、スマートフォンのみならず、タブレット端末も含むものとして、総称してスマホということにする)で検索して、画面かプリントアウトしたテキストを読んで調理するという体系であった。

しかしながら、テキストと数枚の写真の画像のみでは、調理をするうえで、どうしてもわかりにくいところがあった。わざわざプリントなどせずにスマホの画面をみながらも使用できるが、調理中は手が濡れていたり、具材に触れていたりしており、調理中にスマホの画面をあまり触れることができないため、テキスト+静止画でのスマホの利用は、限界があるように思われる。

そこで、動画にすればどうかということにはなるが、単に動画にすればうまくいくという、それほど簡単なものではない。

動画とする場合、通常は、音声のナレーションとなるが、調理中は必ずしも音声が聞き取りやすい状態とはいえない。また、音声ナレーションのみであれば、実際の調理時間と同じになり、動画の再生時間も長くなる傾向になる。また、投稿型は、同じようなレシピが複数アップロードされることで、様々な方法で試してみたり、自分に合った作り方を選ぶなどの楽しみがある反面、煩雑になり、ユーザーが調理方法を選択する手間がかかる場合があることや、同じコンセプトや形態で制作されないので、動画にするとかえってわかりにくいなどの問題も発生しうる。

これらの問題を解決しているのが、DELISH KITCHENとkurashiruの2つの動画メディアであり、同じコンセプトで、同じ流れのコンテンツで、さらに字幕を動画に重ねることでより分かりやすくしている。
【DELISH KITCHEN】

Youtubeより

2.検索と認知

いくらよいコンテンツを作っても、検索でヒットし、また認知されなければ意味がない。かつては、認知のさせ方として、いろいろなサイトに自社サイトへのリンクを表示させる方法(ここでは、「集中型メディア」ということにする)であったのが、SNSの広がりにより、ここ数年で、特に動画メディアの認知のさせ方が、分散型メディアという、自社サイトではなく、様々なSNSサイトにコンテンツを掲載して拡散させて認知させるという自社サイトを持たなくてもユーザーにリーチさせる手法が広がっている。DELISH KITCHENやkurashiruも例にたがわず、同じ手法で認知されるようになっている。DELISH KITCHENとkurashiruのいずれのコンテンツも百数十万以上のファンがいて、ほぼ女性がファンユーザーになっており、これら女性ユーザーが拡散させ、認知が広がっている。

【kurashiru】

Youtubeより

3.ターゲット

前述の通り、DELISH KITCHENとkurashiruは女性のファンユーザーが多いが、これは、料理だからということのみで偶然そうなったわけではなく、あくまでも、SNSの利用率が高い、いわゆるF1層と呼ばれる20代から30代前半の女性にターゲットを絞って、コンテンツが作られ、これらのユーザーが、シェアして拡散することができるメディアに作り上げられている。クックパッドについては、どちらかというと、主婦なども含めた幅広い年代に支持してもらえるような作りになっていると思われる。また、クックパッドは分散型メディアではなく、集中型メディアとして、ポータルサイトの検索でたどり着くメディアであると考えられ、DELISH KITCHENやkurashiruは、クックパッドとはこの面でも一線を画している。

4.価値提案

通常の商品は、いくつからの中から一つを選択するという手法がとられる。ポータルサイトや検索サイトなども、決まったサイトで検索することも多い。しかしながら、分散型メディアのコンテンツの場合、いろいろシェアされて、SNS同士もつながって運用できることから、複数メディアを閲覧することもよくある環境であり、複数のメディアにアクセスして、ユーザーは現在の自分のニーズに応えるものを選択する。それゆえ、複数のメディアが同じように共存できる。

DELISH KITCHENとkurashiruは、自社でコンテンツを作り上げることで、統一感をもつことで、おしゃれでF1層にリーチするメディアに仕上げている。それぞれが、そこぞれのコンテンツに他とは異なるような差別化を意識し、それぞれがそれぞれのコンテンツの価値をユーザーに提供しする価値提案(Value Proposition)が何かを考えて、サイトの作り方などを変えている。メディアにとって、ユーザーの離脱は避けなければならない課題であり、DELISH KITCHENとkurashiruは、メディアの作り方の工夫で多くのファンを作り、これらの多くのファンによって支えられている。

5.DELISH KITCHENとkurashiruの比較

  kurashiru DELISH KITCHEN
撮影位置 天井方向(目線重視) 天井方向(目線重視)
調理方法 電子レンジでの調理が多い フライパンやなべで作るものが多い
再生時間短縮の工夫 早送りを増やして短くしている カットを増やして短くしている
BGM あり あり
音声ナレーション なし あり
動画形状 横型(またはスクエア) 縦型
字幕位置 上部に材料表示

(調理器具に沿うなどの調理手順が隠れないよう工夫)

中央に調理方法表示

縦型を生かした

動画の下部の空間に表示

動画制作観点 PCとスマホの共用を意識

スピード感重視

スマホを意識

効率化重視

レシピ 次ページ以降にテキスト 次ページ以降にテキストと手順に則した動画を用意

調理方法について、kurashiruは電子レンジを利用するものが、多く目につく。これに比べ、DELISH KITCHENはなべやフライパンを利用するものが主流である。したがって、調理を簡素化したいとか別のことをやりながら調理したいとかユーザーのそれぞれのニーズに応えるレシピですみわけしていると考える。また、kurashiruは早送りによって、DELISH KITCHENは通常速度(1倍速)でカットを多くすることで、動画再生時間の短縮をしている。また、DELISH KITCHENは調理方法のナレーションもあり、kurashiruは、スピード感重視、DELISH KITCHENは、効率化重視と推測される。

また、kurashiruは横型動画で、DELISH KITCHENは、縦型動画である。これは、kurashiruはPCとスマホの両方を意識し、DELISH KITCHENは、スマホを重視しているものと考える。これにあわせて、レシピの字幕は、kurashiruは、材料は上部に、調理方法は、画面中央に表示させている。調理器具や作業をふさがないように(例えばボウルの左上の円周に沿って表示したり、手順の切り替え時に表示するなど)表示する工夫をしている。これに対して、DELISH KITCHENは、縦型動画の縦長形状にあわせて、画面の下部の空間に、映画の字幕のように表示させるという違いも生み出している。

6.最後に

分散型メディアでの市場が拡大した時代になり、同じような分類の情報を提供するメディアでも、ユーザーのニーズにあわせた価値を見出して提案し、顧客のターゲットをどこにするかを定めることにより、共存はできることがわかった。共存できるということは、過去に大きなメディアが台頭していたとしても、分散型動画メディアが拡大している現在では、やり方次第でいくらでも新規参入で成功する可能性は十分にあると考える。

【DELISH KITCHEN】
https://delishkitchen.tv/

【kurashiru】
https://www.kurashiru.com/

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StartHome編集部

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