急速な人口減少と、都市部への人口流入により、地方の力はますます衰えています。しかしこの状況を逆手に取り、ヒット商品を生み出した事例も存在します。 今回は、地方都市にスポットを当てて、危機的な状況に陥った施設や企業を三つ取り上げます。そして、それぞれの事例でどのように生まれ変わったのか、その成功要因は何かを探っていきます。
これを読んで「その手があったか!」というアイデアがあれば、是非活用をしてみてくださいね。

廃校を利用した「むろと廃校水族館」

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【 廃校利用した水族館】

「むろと廃校水族館」とは、高知県室戸市にある旧椎名小学校を改築して改築して作られた水族館のことです。

この小学校は児童減少によって12年前に廃校となりましたが、地域活性を盛り上げようという流れの中で、室戸市が水族館への再利用を決めました 。開館前は、「果たして人が来るのか?」と心配の声も上がりましたが、今年の2018年4月にオープン以来、3ヶ月で6万人も来場者を記録しました。

水族館ではありながら館内の隅々に学校らしさを演出しています。 イルカやクジラといったいわゆる水族館のアイドルはいませんがその代わり地元で取れや取れたブリやサバ、カニなど約50種が水槽の中で展示されています。入館料は高校生以上600円、小中生が300円、そして小学生未満は無料となっています。

【むろと廃校水族館が成功した要因とは?】

港水族館がここまで人を集めた理由は何だったのでしょうか。一つは、誰しもが通った小学校へのノスタルジー(昔を懐かしむ気持ち)と、水族館としての非日常体験の融合です。「家庭科室」、「理科室」、「図書室」といった旧椎名小学校の教室をそのまま残しながら、その場所を展示室としてうまく活用することで、他の水族館とは違う、唯一無二の空間となっています。

また25Mプールには、サバやウミガメ、サメを展示し、魚を間近で見ることができます。一般の水族館にいるような、クジラやイルカなどのいわゆる「花形」は、予算的に買えませんが、代わりに地元の漁師さんから頂いたものや、職員さんが海で釣ったものを展示しているので、地元との結びつきを体現する場所としても愛されています。

【むろと廃校水族館の発起人の思い】

現在の館長は、NPO 日本ウミガメ協議会で現地スタッフとして働いていた若月さん。 彼は長年ここで、ウミガメの研究をしながら室戸市内の小学校でも講演を行っていました。しかしその小学校が12年前に廃校になってしまったこと心を痛め、室戸市を再び盛り上げるため、今回のプロジェクトの運営に携わったそうです。

水族館は当初、「学校水族館」としてオープンするはずでしたが、「廃校」という名前をあえて残したところに、若月館長の地域再盛への強い思いがうかがえます。人口減少で、これから廃校となる小学校は出てくるでしょうが、「全国のモデルケースとなるように今後も様々なアイデアを出していきたい」と若月館長は意気込んでいます。

クラウドファンディングを活用した「東築波ユートピア」

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【東筑波ユートピアとは】

茨城県石岡市の山奥にある動物園です。1975年に開園し、バブル期には1日最高4,000人の来場者を記録したこともありました。しかし現在ではその面影もなく、2017年には6日連続来園者が0人を記録するなどし、「世界一お客さんの来ない動物園」という不名誉な呼ばれ方をするようになってしまいました。毎年500万円の経営赤字をだし、従業員は2名のみ、客足は遠のき、いよいよ閉園かというところまで追い込まれたのです。

【東筑波ユートピア再盛までの道のり】

脚光を浴びた契機は、人気テレビ番組「天才志村どうぶつ園」に紹介されたことでした。園長が動物園に込める思いや現場が放送された初回放送後には、お客さんがなんと1日に150人も訪れました。 職員の鈴木さんの Twitter は、放送前はフォロワー数が1,000人程度でしたが終わった後は1万人を超えるまでになったのです。

しかし、動物コンサルタントの田井さんは言います。「テレビ人気は一過性のものになってしまう、今後この動物が再び人気を取り戻すためは根本的な施策が必要だ。」。そして彼はクラウドファンディングの実施を提案したのです。クラウドファンディングで資金を集めることが、「天才志村どうぶつ園」でアナウンスされるやいなや、1ヶ月もたたないうちに1万4,000人の支援者から、5,800万円も資金を集めることに成功したのです。

【東筑波ユートピアの成功要因】

クラウドファンディングの成功は主にテレビの影響力が大きいですが、お金を支援した人々は生まれ変わった東筑波ユートピアが見たいという思いがありました。園長は根っからの動物好きで、人間に捨てられたり親のいない動物たちを引き取って保護をしています。年間500万円の赤字を生み出しながも、周りに反対されても続けていました。そこに援助の手を差し伸べたいという気持ちが全国から集まったのでしょう。

経営状態を逆手に「銚子電鉄のまずい棒」

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【味ではなく、経営が「まずい棒」】

まずい棒とは、千葉県銚子市のローカル鉄道銚子電鉄が、2018年8月に販売を開始したスナック菓子のことです。同社は、以前も鉄道事業の赤字を埋めるために、「ぬれ煎餅」の販売によってその危機を乗り越えました。今回ぬれ煎餅の売上が減少し始め、再び経営状態が「まずい」ということで開発された新商品がこの「まずい棒」です。

販売開始から1ヶ月も経たないうちに初期生産分の3万本が完売し、銚子電鉄は15万本の増産を決定。まずい棒のパッケージには「マズいです!経営状況が…」と涙目で訴えかけ、後ろにはモチーフである緑色の車両が「火の車状態」で走っているコミカルなイラストが描かれています。

【まずい棒の誕生秘話と成功の要因】

まずい棒は、銚子電鉄が毎年夏に行うイベント「お化け屋敷電車」を企画する怪談蒐集家の寺井広樹さんのアイディアによって始められました。車掌姿で描かれるパッケージのキャラクターは「まずえもん(魔図衛門)」。実は、銚子電鉄の滝本社長をモチーフにして、漫画家の日野日出志さんによって描かれたものです。 人気商品「うまい棒」にあやかり、パッケージも商品も似せましたが、名前はあえて「まずい棒」。

「8月3日は破産の日ということで、破産いやいやで18時18分の発売としました。」と銚子電鉄は常にユーモアを忘れません。「まずい棒」は自虐的なネーミングで経営危機を訴えた形となり、これが大ヒットの要因となりました。

【逆転の発想を狙え!ヒット商品の共通点とは?】

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今回は、むろと廃校水族館、東筑波ユートピア、そしてまずい棒を事例として取り上げ、誕生秘話から成功要因をまとめました。この三つの地方発ヒット商品の共通点は、地域とのつながりを保ちながら、経営危機を逆手に取り、ユーザーの興味や関心を惹きつけることに成功したという点です。

むろと廃校水族館では、漁師さんと協力し地域でとれた魚を展示することで、地元とのつながりを強調しています。 まさに地域とのつながりの中で、周囲に愛されながら形にした地方創生の成功例の一つと言えるでしょう。

また人々の興味を惹きつけるためには、「ストーリー性」が非常に大切です。東筑波ユートピアでは、年間500万円の赤字も気にせず、動物愛護のポリシーのもと、捨てられるはずの動物を引き取って、園内で育てていました。閉園に追い込まれると、園内の動物を行き場をなくし、最悪の場合は殺処分をされてしまうでしょう。そうしたストーリーが、受け手の琴線に触れたのです。

まずい棒の事例では、自社の危機的な経営状況を逆手にとって、自虐的に、そしてある意味堂々と、訴えかけました。その結果人々は、誕生のコンセプトに共感をし、結果的に購買行動へと繋がりました。

交通の便が悪く、人口も減少傾向にある地方においては、弱みを強みとして活かす「逆転の発想」が必要だということがわかりますね。あなたの住む地域でも参考にできそうな事例があれば、ぜひ検討してみてくださいね。

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