3年前、ラブレター代筆屋としての活動をはじめた。
その間、本日に至るまで、約40通のラブレターを書いてきた。

「それだけやってれば、スラスラと書けるんでしょうねー」

そう声を掛けられることがある。
それであればいいのだが、正直なところ、そうではない。

数を重ねれば重ねるほど、書けば書くほど、よくわからなくなってくる。
想いを、依頼者の想いを形にするべく、文字を刻むのだけれど、刻むほどに、想いが逃げていく。そんな感覚におそわれる。
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代筆屋の活動をはじめた当初、僕が書くことで、依頼者の想いを、100%、あわよくば120%余すところなく伝える。そう意気込んでいた。だが、いくつものラブレターを経て、その考えは消えた。消した。言葉は、想いを、超えない。いつからだかは忘れたが、そう思うようになった。

いつからだか、と書いたが、実のところ、最初の依頼から、そのことに気づいていたような気もする

最初の依頼は、文字通り、“代筆”だった。
内容は自分で考える。文字だけ、書いてほしい。
依頼者である二十代男性からのメールには、そう書かれていた。

文字だけ?訝しく思った僕は理由を訊いた。

病気のため、上手に文字を書くことができないのです。

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メールはすぐに返ってきた。
僕は、依頼を受けることにした。
僕の役割は文字を書くだけとのことなので、依頼者からの文面を待った。
送られてきたのは翌日。

これだけ?
文面を目にした僕が最初に抱いた感想。

告白、ではなく、想いを寄せる相手へのお詫びの言葉。
ごくごく短い、文章とも言えない、まさに、”言葉”が置いてあるだけだった。

ただ、想いは伝わってきた。
短い、のではない。考えて、絞って、滲み出た、濃縮された言葉なのだと思った。

恥ずかしながら、40通ものラブレターを書いてきたものの、その時の依頼者のラブレターを超えるものを、僕は書けていない気がする。想いを、閉じ込められていない。

書けば書くほど、するりと、想いが逃げていく。

夢を追えば追うほど、愛する人への想いを募らせれば募らせるほど、なぜだか、距離が離れていく。その感覚に近いかもしれない。
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言葉は、想いを、超えない。
僕は、そう思っている。別に悲観的に捉えているわけではない。

だから、依頼者の想いを100%伝える、などと思い上がったことをしようとはしない。
90%なのか80%なのか、とにかく、なるべく、想いをこぼさないように。そう心掛けている。
想いを、単純に文字として形にするだけなら、わりとたやすい。
ただし、手触りというか温度のようなものを伝えようとすると、途端に、容易ではなくなる。

100通なのか200通なのか、今後、僕がどれだけのラブレターを書くのかはわからないが、100%想いを伝えきることは、きっと、終生できないのだと思う。それでいいと思う。

想いを超えることはできないけれど、なんとか近づこうと、言葉を重ね、刻む。
その営みには価値があると思うし、そのことも含めて、ラブレターというものの良さなのだと、僕は思う。

<プロフィール>

kobayashisan

小林慎太郎。1979年生まれの東京都出身。
ITベンチャー企業にて会社員として働く傍ら、ラブレター代筆、
プレゼンテーション指導などをおこなう「デンシンワークス」(dsworks.jp)を運営。
●著書
(インプレス社)

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【連載】恋文横丁 ~ラブレター代筆業の日々~ Vol.1”自分勝手”な想い
【連載】恋文横丁 ~ラブレター代筆屋の日々~ Vol.2「男って…」
【連載】恋文横丁 ~ラブレター代筆屋の日々~ Vol.3「一目惚れ…」
【連載】恋文横丁 ~ラブレター代筆屋の日々~ Vol.4「ラブレターを書くコツは…」
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